あそびのアトリエ ズッコロッカ[みずのさやかさん、シーナアキコさん、糟谷明範さん](後編)
- Sketch Creators Vol.8
「失敗は成長の糧となり、出会いは人生の可能性となる」

sketch(スケッチ)とは、人物や風景などを描写すること。連載インタビュー企画「スケッチクリエイターズ」では、素晴らしいクリエイションを生み出すさまざまなクリエイターへのインタビューを通じ、彼らの創作背景を言葉と写真で写しとっていきます。

第8回目となる今回は、「あそびのアトリエ ズッコロッカ」を主宰するアートコミュニケーターのみずのさやかさんと音楽家のシーナアキコさん、そしてズッコロッカを設立時からサポートする理学療法士の糟谷明範さんに、ご登場いただきます。多種多様な道具や材料が並ぶズッコロッカには、子どもから大人まで年齢性別を問わず、さまざまな人が訪れ、それぞれが自由なものづくりを楽しんでいます。後編ではズッコロッカでの過ごし方や遊びのアイデア、マルマン製品の活用術、コミュニティの場づくりの重要性などをお聞きしました。

ズッコロッカの入口のドアに飾られた木製の手づくり看板。

「できない」は進歩につながるファーストステップ

ズッコロッカにはさまざまな作風の絵が飾られていますね。どれも子どもたちの作品だと思うのですが、クリエイティブな感性にハッとさせられます。

みずの:みんな感性が豊かなんですよ。それぞれの表現があり、それぞれで違う良さがあるからどれも素敵です。具体物を描く子もいるし、色遊びをする子もいる。「絵を描く」とひと言にいっても作品はさまざまです。子どもたちの描く過程、つくる過程、そのプロセスがとってもいいなと思うんですね。自然と周りの子にも影響しあっていて、見ている私たちもとても楽しいです。

シーナ:たとえば誰かがアニメの絵を描いていると、それを見た子どもたちが一緒にアニメの絵を描き始めたり。

子どもたちがマルマンの「図案スケッチブック」に描いてくれた絵しりとり。

みずの:本当に自由に遊んでいるんです。紙を切るとしたら、大きな紙の真ん中をちょこっとだけ切ったりして(笑)。こっちからするともっと小さい紙もあるんだけどなぁと思いながらも、そこが使いたかったんだよねって、とくに口出しはしません。

シーナ:「如月愛咲(きさらぎあいら)」という名前で小説を書き、自分で製本している小学4年生の女の子もいますよ。彼女はもう立派な小説家。ズッコロッカで出店したフリーマーケットでは、20冊くらい売っていました。

みずの:その子自身は絵が苦手だからって、挿絵は学校の友達にお願いしているんですよ。もう14作書いていて、小説のコンクールにも応募しているみたいです。

如月愛咲先生の小説はラブコメ。ストーリーと挿絵もマッチしています。
それはすごいですね! ズッコロッカにはたくさんの道具や材料があり、訪れた方々は自由なものづくりを楽しんでいるそうですが、手や頭を使って創作することで、どういったことが得られるとお考えでしょうか?

シーナ:成功しても、失敗しても、その経験は身体に蓄えられていく。身をもって体験したことは、何かしら自分の進歩につながっていく気がしています。だからズッコロッカで過ごす子どもたちも、とくに何かをつくるわけでもなくその場に居て過ごすだけであっても、そのすべてが自らの蓄えになっているのではないでしょうか。

「ズッコロッカのある東京都府中市は市民の活動が盛んで、この場を通じて市民の方々と自然につながれるんです。とてもいい地域だなと感じています」とシーナアキコさん。

みずの:失敗したっていいんです。むしろいっぱい失敗してほしい。図工の時間でもつくるのが苦手な子はいて、だからといって「今日の授業が終わっちゃうから早くしよう」とあせらせたって、いいものは生まれません。そういう子には「今日は考えるだけで終わってもいいよ。その時間がすごく大切だから」と伝えればいいと思うんです。文字も、色も、かたちも、いま感じているものを創造しているわけですから、それが自分の表現になる。それがあなたなんだよって、分かってもらうだけで十分なんですよ。

シーナ:ものをつくることが苦手でも、歌や踊り、演技など、別の表現が得意な子もいますから。

みずの:できないからダメなんじゃない。一人ひとりが、自分に自信をもってほしいんです。

天井に飾られているのは、亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブユニット tupera tuperaの作品。

いつも履いている靴下も遊びの道具に

コロナ禍でおうち時間が増えましたが、自宅で子どもが楽しめる遊びを教えてください。

みずの:以前、オンラインのミーティングアプリで保育園の子どもたちを対象とした企画があった際に提案した遊びですが、靴下を使ったお人形遊びは誰でも楽しめると思います。手に靴下をかぶせるだけでもいいし、目をつけたらもっとかわいくなりますよ。ダンボールなどでつくった額縁をステージにして、「こんにちは! 君は何色の靴下を履いているの?」とお話したり(笑)。

シーナ:靴下は足に履くものというイメージですが、身近なものも遊びの道具になるんだよという、気づきにもなるかなと思ったんです。靴下はみんなが持っているものですし。

みずのさんとシーナさんが、靴下を使った即興人形劇を演じてくれました。人形の目は色紙を切ったもの。

みずの:ぬいぐるみを使おうか、封筒を使おうかといったアイデアも出たんですけど、持ってない人がいるかもしれないから、その場で脱いでもらって遊べたらいいよねって。

シーナ:親御さんは驚いてしまうかもしれないけど、やってみようって(笑)。

みずの:固定観念を外し、視点を変えるだけでいろいろな発見があるんです。瓶の蓋だって大量にあれば創作の材料になる。顔のパーツにもなるし、楽器にもなります。紙も四角い状態だと「絵を描くもの」というイメージが強くなりますが、大きな紙だと創造性が刺激される。だからズッコロッカには多種多様な道具や材料を並べているんです。

いろいろな道具が揃うズッコロッカにはグルーガンまで用意されています。

文具選びと“書く”理由は結びついている

マルマンでは「クリエイティブ・サポート・カンパニー」というステイトメントを掲げています。常に柔軟な発想をもち、クリエイティビティを刺激するさまざまな活動を行うみなさんが考える、マルマン製品の活用方法についてもぜひお話をお聞かせください。

シーナ:そうですね、たとえば「PIET」のルーズリーフ・バインダーにはさんでいるA5サイズのノート「セプトクルール」の3mmのマス目が、織物の図案を考えるときに役立っています。あと、私はもともとルーズリーフに馴染みがあって、演奏の仕事の際に愛用しているんですね。コンサートによって演奏する曲が変わりますから、「今回はこの楽譜とこの楽譜を使うな」と中身の入れ替えができるところが気に入っているんです。そういった背景もあり、これまでルーズリーフやバインダーは事務的ものとしてとらえていた面がありました。でも「PIET」は表紙のグラフィックや色使いのセンスが際立っている。付属するステンシルや分度器、ポケットも多彩な紙でつくられていて、おもしろいなと思いました。

シーナさんが手にしているのはPIETのバインダーの「AMAGAPPA」。全6柄で展開されており、ヴィヴィットなカラーもポイントです。

みずの:私は社会人になってからはノートを使うことがほとんどなんですけど、「ジウリス」のA5サイズのバインダーがすごくいいなと思いました。マルマンさんでは「画用紙リーフ」や「クロッキーリーフ」、「ファスナー付きポケットリーフ」など、ルーズリーフの種類が多彩なので、好きな紙だけを持ち歩けるのが嬉しい。タブレットPCを挟んでカバンに入れられるサイズ感も気に入っています。

みずのさんが小学校の図工の先生をしていた頃の教え子が、ズッコロッカに遊びにきた際、描いてくれたという絵。

糟谷:僕は自宅の壁にアイデアを書いた紙をたくさん貼っているので、「ニーモシネ」の「ロールふせん タスク型」は活用できるなと感じました。付箋だと壁から剥がれてしまいますが、これはマスキングテープタイプで日付やタスクを書き込める仕様になっており、非常に便利ですね。最終的にまとめるのはパソコンを使いますが、アイデア出しは手書き派。書き出したものを俯瞰して眺め、思考を巡らせていくんです。

「アイデアはまず自分の言葉で書きたいなと思うんです」と糟谷明範さん。

シーナ:私も事務的なものはパソコンやタブレットPCを使いますが、作曲は手書きですし、いただいた楽譜を頭の中で整理するときも手書きで印をつけていきます。自分で書いた文字や印は、目にも記憶にも残るんですよ。

みずの:私も書く派だなぁ。書いて、その文字を目でみないと覚えられないんです。字が雑になってしまったとしても、自分で書いたことは分かるんですよね。あと何が重要事項なのかとか。

15年くらい前はノートを3冊貼り合わせて、分厚いオリジナルノートをつくっていましたよ。1冊目は予定などを書き込むフリースペース、2冊目はつくりたいことを書くアイデアノート、3冊目は行きたいお店や行ったお店の情報を残しておくためにショップカードなどを貼っていました。すごく重たいんですけど、カフェでノートを書くのが楽しかったんだと思います。いま振り返ると、それが自分の好きなことと向き合う時間だったんでしょうね。

みずのさんが約15年前に使っていたオリジナルノート。ぎっしり書き込まれ、当時訪れたショップカードなどもスクラップされていました。

シーナ:それにノートって手元に残しておきたくなりますよね。娘は描いた絵を親の私が「いい作品!」って思っても、本人が気に入らないとビリビリにしてしまうんです。だけど「麻表紙 スケッチブック」のように大切にしておきたくなるスケッチブックなら、破らないでいてくれるかなって思うんですよ(笑)。

みずの:「麻表紙 スケッチブック」、素敵ですよね。表紙にアクリル絵の具で絵を描いたり、別の布を貼ってコラージュしたら、めちゃくちゃかわいいだろうなぁ。それこそまさに、自分だけのスケッチブックになる。

素晴らしいアイデアの数々をありがとうございます!

子どもたちは全員アーティスト、描かれた作品も独創性に溢れています。

将来の夢よりも、“いま”を大切にしてほしい

ズッコロッカへ通うようになって、変化があったお子さんはいらっしゃいますか?

みずの:人とコミュニケーションをとるのが苦手な小学2年生の男の子がいたんです。いつもお母さんの後ろに隠れていて、私が話しかけても「お母さん、どうしたらいいの?」みたいな感じで。でも小学校4年生のお兄さんがほどよい距離感で関わってくれたことで、2年生の男の子の積極性が生まれてきたんですね。それまではひとりでいることを好んでいたのが、いまではみんなと一緒に遊ぶようになりました。

シーナ:「何してるの?」って、ほかのグループにも話しかけられるようになったよね。私たちにピアノを演奏してくれたこともあったんですよ。

みずの:驚くほどの変化で、自分を出せるようになったんです。お母さんも一緒に参加してくれているのですが、お母さん自身も子どもとの関わり方が変わったというか、以前は「大丈夫かしら?」という感じだったのが、いまは「どうにかなるでしょ」みたいな(笑)。

「子どもたちの笑顔が増えて嬉しいです」と笑うみずのさやかさん。

シーナ:逆に他のお子さんのことを見てくれて、私たちもすごく助けられています(笑)。

そんな嬉しい変化をしたお子さんもいらっしゃるんですね。ズッコロッカはたくさんの出会いと刺激に溢れているので、将来の道を決めるヒントも得られそうです。

シーナ:子どもたちに「将来は何をやりたい?」といったことは聞かないようにしています。私が小さい頃、大人からそういう風に言われることが怖かったので……。いま好きなものがあることの方が、大事だと思うんです。

みずの:そう、「いま」なんだよね。いまが輝いているから、いまを褒めてあげるんです。

毛糸、リボン、布、ボタンなど、手芸の材料も豊富です。
素晴らしいお考えですね。みなさんのような方々に、小さい頃に出会えたお子さんたちがうらやましくなります。

みずの:ズッコロッカを立ち上げて2022年で3年。運営を通じて、ここは社会に必要な場所だったんだなとつくづく感じています。子どもたちって、基本的に学校と家との往復じゃないですか。だから知っている大人の数は限られてくるし、そうすると知っていることも限られてしまう。将来の夢を考える以前に、「この道しか思いつかなかった」となってしまう気がしていて。

シーナ:選択肢が限られてしまうんですよね。

みずの:世の中にはおもしろいことをしている大人がたくさんいるから、ズッコロッカでいろんな大人たちに出会ってほしいなと思うんですね。それにこの場所には学校も学年も異なる子どももたくさんいます。みんなが意識的に関わるのではなく、自然とコミュニケーションが生まれているんですよ。

シーナ:いろいろな人との出会いによって、視野が広がり、新しい引き出しも増えていく。進路で悩んだとしても、生き方はいつでも変えられるって、知っておいてほしいんです。私だって大学でマリンバを専攻しましたが、30歳までこの楽器を封印し、でももう一度始めたことで、いま仕事になっていますから。

ズッコロッカのアトリエには、優しい時間が流れています。

ズッコロッカはみんなでつくるからおもしろい

ズッコロッカをスタートさせたことで、みなさんご自身が感じた変化はありますか?

糟谷:大人と子どもが混じり合って過ごせる地域コミュニティにしたいと考えていたので、ズッコロッカはいろいろなアイデアを与えてくれる場になっています。

僕の会社で運営しているカフェ「FLAT STAND」では、「ダレカノticket」というチケットをレジの脇に貼っているんですね。子どもたちはお金をもっていないので、カフェには入れない。入ってもらいたいけど、他のお客さまの迷惑になってしまう可能性もあります。だから誰かが買ってくれた「ダレカノticket」を、子どもの誰かがが使うことで、カフェで子どもたちも過ごせる仕組みを考えました。夏はチケット1枚でかき氷、冬はモッフル(お餅をワッフルメーカーで焼いたもの)を提供しているのですが、このチケットを利用した子どもたちが大きくなったとき、誰かのために「ダレカノticket」を購入してくれたら嬉しいなと思うんです。ズッコロッカに来る子どもたちも「FLAT STAND」に遊びにきてくれていて、チケットをつくるのを手伝ってくれたりもするんですよ。

みずのさん、シーナさん、糟谷さんの優しくて温かいお人柄も、ズッコロッカの魅力です。

みずの:糟谷さんはこうやって場と地域を整えてくださっているんです。FLAT STANDはズッコロッカからも近いので、「FLAT STAND行ってくるー!」と遊びに行く子どもも多いですよ。

糟谷さん:いずれ自分も老いていく。そのとき、温かいコミュニティが形成された街で暮らしていたいなと思うんです。だから結局は自分のためなんだと思いますよ(笑)。

みずの:またまた、そんなこといちゃって(笑)。でも、私も自分のためにやっているんだろうなと思うんです。地域のために、と思って立ち上げたズッコロッカですが、自分自身が楽しめる場所になっていますから。

壁に描かれたイラストも、子どもたちの作品。空間そのものも、ズッコロッカを訪れるみんなでつくっているそうです。

シーナ:娘にもズッコロッカで兄弟姉妹がたくさんできたようでありがたいなと思っています。場ができるって、自分が想像していた何千倍もすごい力があるんだなと感じました。

みずの:ズッコロッカのおかげで、人との繋がりがより深く、より広くなったなと思います。やっぱり人はひとりで生きていくことができません。みんながいてこそ、楽しく過ごしていける。だからズッコロッカも、みんなでつくるから、おもしろい場所になっているんです。

大きな黒板には子どもたちが自由にメッセージを書き込んでいます。

 

《プロフィール》

みずのさやか(みずの・さやか)
アートコミュニケーター、図工の先生

学校や美術館、地域など幅広いフィールドで、子どもたちとアートを活用した活動を展開。出張図工プロジェクト「山と水の図工室」の取り組みで、第22回東京新聞教育賞を受賞。子どもにも大人にも、今日もワクワク楽しいことを提案しつづける。

シーナアキコ(しーな・あきこ)
ピアノ・マリンバ・ガラクタ演奏家

CMやテレビ番組、映像音楽の制作のほか、さまざまな音色をサンプリングして音楽をつくる特別授業や、間伐材をはじめとした木製の楽器づくりなど、大人も子どもも楽しめるワークショップもプロデュースしている。

糟谷明範(かすや・あきのり)
株式会社シンクハピネス代表、理学療法士、一般社団法人CancerX理事

2014年に東京都府中市にて設立した株式会社シンクハピネスにて、「住民と医療福祉の懸け橋になる」をモットーに、訪問看護・リハビリ、居宅介護支援、カフェ事業を展開し、まちのみんなと一緒にコミュニティの場(通称:たまれ)をつくっている。