タレント 久保田雅人さん(後編)
- Sketch Creators Vol.11
「『わくわくさん』として、死ぬまで工作の魅力を伝えていきたい」

sketch(スケッチ)とは、人物や風景などを描写すること。連載インタビュー企画「スケッチクリエイターズ」では、素晴らしいクリエイションを生み出すさまざまなクリエイターへのインタビューを通じ、彼らの創作背景を言葉と写真でうつしとっていきます。

第11回目となる今回は、NHK Eテレ『つくってあそぼ』の「わくわくさん」として、子どもたちに工作の楽しさを伝えつづけてきた久保田雅人さんにご登場いただきます。工作をするときによく使う道具、紙を使った工作、お子さんと一緒に工作をする際に意識することなどをお伺いしていきます。

工作するときに必要な道具とは?

子どもと一緒に工作を楽しむ際、用意しておくといい道具について教えてください。

お子さんに工作用の道具をこれから買い揃えるのなら、「子ども用」を選んであげてほしいですね。100円ショップなどで売っているのは基本的に「大人用」なので、子どもが使いこなすには難しい。道具を自由に使えるのも工作のおもしろさのひとつですから、ぜひご検討いただけると嬉しいです。

久保田さんがいつも使っている工作の道具。

道具は、ハサミ、セロハンテープ、ノリ、カッターナイフ、ホッチキス、油性ペンを用意していただくといいでしょう。ハサミを使う際は「人に刃を向けない」、「振りまわさない」、「渡すときは柄の方を差し出す」といった、安全のためのルールもお子さんに教えてあげてください。セロハンテープを選ぶポイントは切りやすさ。材質のよくないテープは、そなえつけの歯で上手くカットできないうえ、ビニョーッと伸びてしまいます。そこでやる気が失われてしまうお子さんもいるので、可能なら台付きのセロハンテープを用意していただきたいですね。

「できれば子どもたちには、どっしりとしたカッター台を使わせてあげたいと思っています」と久保田さん。

ノリは信頼のおけるメーカーさんのものを選ぶのがベスト。安価なノリですとくっつきが悪く、すぐに剥がれてしまうんです。カッターナイフはやはり危ないですから、お子さんが小学校にあがってから使わせるのがいいと思いますね。そのときもいきなりお子さんに渡すのではなく、親御さんが使い方のお手本を見せてあげてください。ハサミと同じく、安全のルールを教えてあげることも大切です。ホッチキスは500円も出せば長持ちする立派なものが買えますから、ぜひそちらを。値段の安いホッチキスは故障しやすく、歯が出なくなってしまうことが多いそうなんですね。100円、200円のホッチキスを買い直すよりも、最初にきちんとしたものを買った方が、結局はお得なんじゃないかなと感じています。ペンは油性ペンを用意しておくと便利ですよ。色数豊かなクレヨンやフェルトペンなどもいいのですが、ビニールや牛乳パックには上手に描けないので。油性の方が色のりがよく、落ちにくいという利点もあります。

「『大人用』の道具は大人だからこそ使いこなせるものもあるので、子どもが使いやすい道具を選んであげてください」と久保田さん。
なるほど。きちんとした道具を揃えるのも、子どものことを考えた理由があるのですね。

そうですね。もしセロテープがなかなか切れず、何回もダメにしてしまったとき、「もったいないでしょ!」と親御さんに怒られてしまったら、そこで子どもはくじけます。子どもの立場からすると、「あなたが買って与えた道具だろう」ということなのに(笑)。工作を楽しむためにも、子どもが使いやすい道具を選んであげることは重要なんですよ。

わくわくさん時代から愛用しているお道具箱は牛乳パック製

久保田さんがお道具箱にされているものは、もしかして牛乳パックですか?

そうなんです。『つくってあそぼ』を始めた頃、工作を考案してくださるヒダオサム先生に教えていただいて。私のお道具箱は30年くらい牛乳パック。つぶれても問題ないですし、カバンの中に入れてもプラスティックのように割れたりしません。けっこう丈夫ですよ。

つくり方も簡単。2本の牛乳パックを用紙し、1本目は上部をカット、2本目は上部を残し、側面を薄く切っていきます。2本目の上部をホッチキスやテープで止めたら、1本目の中に入れていくだけ。私はパックのサイズに合わせて、収納するものを変えています。

久保田さんのお道具箱。収納力も高く、ハサミ、カッター、ホッチキス、ペンなど、さまざまな工作の道具が入っています。
親御さんのサポートがあれば、子どもでもつくれるほど簡単なのですね! 自分でつくったお道具箱なら、収納する道具も大切にしてくれそうです。

自分でつくれば、自分で修理することだってできますよね。そうすることで、本当の意味でものの大切さが学べるんです。「もったいない」という言葉だけを教えるのではいけません。やはり実体験をさせないと。ものをとことん使い切り、自分で捨てる。そこで初めて「もったいない」の真意が分かると思うんですよ。

「図案スケッチブック」と色画用紙「ミ・タント」を使った工作

確かに。工作はたくさんの大切なことを教えてくれるのですね。他にも工作を教えてください!

もちろん! ではマルマンさんの「図案スケッチブック」で遊びましょう。ちょっと話がそれますが、私はこのスケッチブックが大好きなんです。テレビや映像など撮影の現場で、カンペとしてよく使われているのもコレ。めくりやすく、描きやすく、色も裏抜けしない。しかもサイズのバリエーションが豊富なので、重宝しているそうですよ。

「図案スケッチブック」は、B6からA3まで幅広いサイズで展開しています。

さて、工作に入りますね。子どもたちと楽しむときのように、クイズ形式で進めさせていただきます。草むらや薮のなかに住んでいる、ニョロニョロとした細長い生き物はなーんだ?

久保田さんはスラスラと「へび」という文字を書いていきました。
ヘビ、ですか?

正解! さっそくヘビちゃんを描いていきます。ニョロニョロ〜ニョロニョロ〜っとしているうちに、ヘビちゃんになりました!

かわいいです!

次は「モーモー」と鳴く動物といえばなーんだ?

油性ペンで文字を書いても、色が裏移りしにくいのも「図案スケッチブック」の特徴です。
牛、ですかね?

正解! こうやって、こうやって、こうしていくと……。

すごい! こちらもかわいい牛になりました! 大人の自分ですらとても楽しいので、子どもたちに見せたら大喜びでしょうね。

いかに楽しく伝えていくかが、私の仕事なんです。

「うし」の文字があっという間にかわいいイラストになりました。
マルマンではキャンソン社の色画用紙「ミ・タント」も扱っているのですが、この色画用紙を使った工作のアイデアもぜひ教えていただきたいです。

「ミ・タント」はA4サイズの色画用紙なので、今回は半分のサイズに切りましょう。そして切った紙を半分に折り、真ん中に約3cmの切り込みを入れて、切り込み部分に三角の折り目をつけていきます。

こちらの工作では、「ミ・タント」のように厚手の色画用紙を使うのがおすすめです。

次に紙を少し開き、折り目に沿ってへこませていきます。

折り目に沿って、内側に向けて紙をへこませます。

すると、パクパク! パクパク!

紙を開くと口のようなものが現れました。
くちばしのようですね!

その通り! そこに目や身体を描いていくと……、ヒヨコちゃんになりました!

久保田さんは工作だけでなく、絵を描くのもお上手です。

口のうえに目を描くことで、いろんな動物がイメージできるんです。カエルもそうですし、似顔絵を描いたっていい。子どもならではの感性を通すと、イマジネーションが膨らんでいくので、そこを大事にしてあげたいですね。

色画用紙の色を変えると、また違ったアイデアが湧いてきそうです。

さらに外側に同じサイズに切った紙をノリで貼ると、飛び出すメッセージカードにもなります。「ミ・タント」は厚手の色画用紙なので、たくさんパクパクしてもヘタりにくいのがいいですね。薄い紙を使ってしまうと、どうしても上手くいかない場合があります。だから可能な限りで構いませんので、高級品とまでいかずとも質のいい紙を、お子さんに使わせてあげてください。

外側に貼った紙の色は、パクパクする口の中から見える仕掛けです。

子どもの工作は、気長に見守り、褒めることが大切

今回、紙を使った工作をご紹介いただきましたが、久保田さんはどんなところが紙の魅力だとお考えですか?

切り方ひとつ、折り方ひとつで、いろんなものがつくれるのが、紙の魅力だと思っています。私が『つくってあそぼ』に出演していた頃、一番多く使った材料は色画用紙なんですね。いろんな色があると楽しいですし、色からインスピレーションを得て、子どもたちからもさまざまなアイデアが出てきます。私自身、子どもたちからヒントをもらうこともたくさんありますよ。

久保田さんがめくっているのは27色の色画用紙が1冊となったマルマンの「ファンシーペーパー」。です。
なるほど。しかも紙は絵を描いたり、貼ったりできるのも楽しいですよね。子どもたちに工作を教える際、意識していることはありますか?

私は工作を通じ、「たったこれだけのことで、こんなに楽しいものがつくれるんだよ」ということを教えてあげたいんですね。ゴミ袋1枚と輪ゴムひとつあれば、ゴミ袋に空気を入れて輪ゴムで止めるだけでボールになります。そうすればみんなで大玉送りをして遊ぶこともできる。こんな風に、ものの見方、遊び方を、子どもたちに伝えてきたいなと思っています。

また、これは親御さんがお子さんと工作をするときにもいえるのですが、大人があまり手を出さないことも意識していますね。個人差もありますが、子どもは小さな作業が苦手です。指や手の動きを習得している年齢ですから、上手につくれなくて当然。「もっとサッサとできないの?」といった叱り言葉は子どもの楽しい気持ちを台無しにしてしまうので、気長にじっくりと見守ってあげるんです。できないことがあったとしたら、全部を親御さんがやってしまうのではなく、アドバイスをしたり、少しだけサポートしてあげるといいでしょう。

「子どもは親御さんと一緒に工作ができるというだけで、とても楽しいんですよ」と久保田さん。

そして工作が完成したら、どんなに不恰好な仕上がりでも、「上手にできたね」と褒めてあげる。そう言ってあげると、子どもの表情はパッと輝くんですよ。子どもは大人、とくに親御さんに褒められると、自信をもち、またつくりたいという気持ちになるようです。工作に失敗はありません。だからもし「ここは直した方がいいんじゃないかな」と思うところがあっても、まずは「よくできたね」と褒めてあげ、そのあとで「こうすると、もっとすごくなるよ」とアドバイスしてあげてください。つくる喜び、出来上がったときの喜びは、工作の大きな魅力ですから。

久保田さんがその場でササッと描いてくれたわくわくさんの自画像。優しい雰囲気までそっくりです。

いつまでも「わくわくさん」でいるために

『つくってあそぼ』をご卒業されたとはいえ、久保田さんはずっと「わくわくさん」でいてくれているんだなと感じます。

私自身、ずっとわくわくさんでいたいんです。死ぬまでわくわくさんでいられたら本望。そのためには老けないことが大切ですよね。わくわくさんの設定は20代後半ですし(笑)。それは見た目ももちろんなのですが、自分の気持ちを老けこませないということ。わくわくさんは「子どもたちがわくわくするものを、つくってくれる人」という思いのもと、誕生したキャラクターです。つまり常日頃から、自分がわくわくしている人でもあるんですね。自分が毎日わくわく楽しく過ごしているから、子どもたちにもわくわくした気持ちを届けられるんですよ。

時代が変わっても、子どもたちは変わっていません。何かをつくりたいという気持ちは同じです。私が工作を見せ、子どもたちがそれを真似て一緒につくってくれる。そしてたくさん笑ってくれる。私にとってその笑顔は、最高の喜びですね。

「私はきっと、ずっとこのまんまだと思います」と久保田さん。

 

《プロフィール》

 

久保田雅人(くぼた・まさと)
タレント

 

1961年東京都生まれ。立正大学文学部史学科卒業、中学・高校の社会科教員免許を取得。1990年4月〜2013年3月までNHK Eテレ『つくってあそぼ』にて、わくわくさん役として出演。番組放送中から全国の幼稚園や保育園での工作ショーや親子工作教室などを展開し、現在も継続。保育士や学生向けの講演会や工作研修会も行なっている。