モデル・女優 三戸なつめ(後編)
- Sketch Creators Vol.2
「“描くこと”と“書くこと”で、自分を表現する」

sketch(スケッチ)とは、人物や風景などを描写すること。連載インタビュー企画「スケッチクリエイターズ」では、素晴らしいクリエイションを生み出すさまざまなクリエイターへのインタビューを通じ、彼らの創作の背景を言葉と写真で写しとっていきます。
第2回目にご登場いただくのは、モデルや女優などさまざまな分野でマルチな才能を発揮する三戸なつめさん。全編に続く後編では、絵を描くこと、演じること、文章を描くことなど、さまざまな表現に込める思いについてお伺いしていきます。

はじめて手がけた絵本『ムム』を手に。続編となる『ムム 〜しまちゃんのおたんじょうび〜』も2018年に発表。

絵本はリアルな自分を表現できる場所

2017年には長年の夢であったという絵本作家としてデビューをされています。文と絵を手がけた『ムム』は、ぬいぐるみ王国で暮らすラッパが得意なくまが地球に降り立ち、一人前のぬいぐるみを目指す物語となっていますが、この絵本にはどのような思いを込めたのでしょうか?

『ムム』は私が5歳のときにお母さんに買ってもらった、くまのぬいぐるみを題材にした物語なんです。妄想が好きなので、昔からぼんやり思い描いていたストーリーを絵本にまとめました。私が伝えたいことって、「強く生きていこう」なんですよ。ざっくりしすぎかもしれませんが(笑)。だけど難しい言葉を並べるよりも、小さなぬいぐるみが一生懸命頑張っている姿を描くことで、絵本を読んでくれた方々の背中を押せたらいいなと思ったんですね。

くまのぬいぐるみ「ムム」のモチーフとなった、三戸さんのぬいぐるみ「クウ」のイラスト。

今の時代、みんなが「いいね」といったものが「よし」とされる風潮があるじゃないですか。でも私は、自分の頭の中に浮かんだものとか、自分の心がトキメク服とか、自分が「いいな」と思ったその感情を大切にしてほしいなと思うんです。人と人は違って当たり前ですから。

絵本『ムム』に掲載されている絵の原画。
絵本は大人にも響く言葉やストーリーも多いですよね。かわいらしい「ムム」の健気な姿に、勇気づけられる方も多いと思います。三戸さんは幼い頃「将来は漫画家になりたい」と思うほど絵がお好きだったとか。大人になってからも日常的に絵を描かれていたのですか?

描いていました。絵を描いている時間は、ひとりの世界に入れるんです。何も考えず、黙々と絵を描くことが好きなんですね。私はモデルをしたり、歌ったり、演じたり、いろいろなお仕事をさせていただいていますが、絵本はもっともパーソナルな面が強い。“三戸なつめの脳みその中”が、リアルに表現されていると思います。

クロッキーブックの紙を勢いよくめくり、音を楽しむこともあるそう。

クロッキーブックをめくる“音”が好き

ご愛用の画材を教えてください。

絵の具や色鉛筆、あと最近はクレヨンにハマっています。コロナ禍で増えたおうち時間は、クレヨンでいろんな犬を模写していました(笑)。紙はマルマンさんのクロッキーブックをめちゃめちゃ愛用しています。服飾の専門学校に通っていた頃も、デッサンで使っていましたし。紙をペラペラめくるときに出る音がすごい好きなんですよね。なんていうのかな。鳴らしたくなる音と、この音を出せる紙の薄さが最高なんです(笑)。気兼ねなく描ける枚数と金額のバランスもいい。私は文房具が好きで、特にノートをたくさん買ってしまうんですけど、もったいなくて使えないものが多いんです。でもクロッキーブックはガシガシ描けるので。

クレヨン画ならではの温かみのある風合い。犬以外の動物やスイーツのイラストも。
ありがとうございます。まさにクロッキーブックは、しなやかさとめくりやすさに重点をおいて設計されているんですよ。普段はクロッキーブックでどんな絵を描かれているのですか?

女の子、いろんなキャラクター、アパレルブランドとコラボしたデザイン画など、いろいろ描いています。お洋服のデザインは学生時代からやりたかったことなので、 やっぱり気合が入っちゃいますね。せっかくお声かけいただけたのだから、自分にしかつくれないアイテムをご提案したい。ちょっとおかしなモチーフや柄などで、“楽しさ”をデザインに組み込んでいくのが私らしさかなと感じています。

取材の際、三戸さんがその場でクロッキーブックに描いてくれた「前髪の短い女の子」のイラスト。

演じることで、成長していく

女優業についてもお聞きしたいのですが、本格的に活動を開始されたのは2018年からだそうですね。これまで演じられた中で、特に印象的だった役柄はありますか?

松本大洋さん原作の『鉄コン筋クリート』の舞台で演じさせていただいた「シロ」(物語の舞台となる街で、驚異的な身体能力をもつ「クロ」と暮らす、純粋な心をもつ少年)です。もともと『鉄コン筋クリート』は大好きな漫画でしたし、シロも大好きなキャラクターでした。そんなシロを私が演じられるとなったとき、どんなクロが現れたとしてもシロは必ず受け止めるだろうなと思ったんです。だからクロを演じたワカちゃん(若月佑美さん)の表現を、しっかり受け止めて演じることを大切にしました。チームとしても素晴らしかったので、より一層思い入れが強いですね。

人気漫画『賭ケグルイ』のドラマ&映画版では黄泉月るな役として出演。
演技をはじめたことで得た気付きとは?

自分の成長につながっています。それに演技をするようになってから、日常を大事にするようになりました。喜怒哀楽を自分自身がどう感じているか、ちゃんと自問自答するんです。演技レッスンをはじめる前は映画を観ても泣くタイプではなかったし、むしろ「自分の喜怒哀楽を出してもしょうがないしな」と思っていたんですね。だから「人間らしくなった」という方が、正しいかもしれません(笑)。

愛用のペンケースと筆記具。鉛筆はカッターで削る派だそう。

考えを文章にするという新たなチャレンジ

三戸さんはモデル、女優、歌手、絵本作家など、マルチな活動を展開されていますが、新たに挑戦してみたいことはありますか?

自分が考えていることや感じたことを、文章で表現することに挑戦中なんです。2021年からメディアプラットフォーム「note」で言葉を綴りはじめたんですけど、しゃべるよりも書いた方が素直な言葉が出てくるんですよ。カッコつけたりせず、自分自身とじっくり向き合えるので。だからまずはこれを続けていきたいなと思っています。

「文章を書いていると『面白いワードだな』といった発見もあるんです」と三戸さん。
「文字を書く」という行為は、さまざまな気付きを与えてくれますよね。次々に新しい表現へ取り組まれる三戸さんの今後のご活躍も楽しみです。

20代前半の頃はガツガツしていたというか、「自分がやって楽しいこと」を基準に突き進んでいました。ただ年を重ねるごとに、自分のために頑張ることへの限界を感じるようになってきたんです。そこで振り返ってみると、自分に関わってくれる方やファンの方への感謝が溢れてきて、恩返しとなるものを発信したいと思ったんですね。「自分のために頑張るぞ! おー!」というマインドのときよりも、強くなれた気がしています。

三戸さんのInstagram(@mito_natsume)やYouTubeチャンネル『「三戸なつめのビデオブログ「なつめと、」』もぜひチェックを。

 

《プロフィール》

 

三戸なつめ(みと・なつめ)
モデル・女優

 

1990年奈良県生まれ。2010年に関西で読者モデルの活動を開始。2015年には中田ヤスタカプロデュースによる『前髪切りすぎた』でアーティストデビュー。2017年1stアルバム『なつめろ』をリリースし、全国9箇所でのワンマンライブツアーを開催。同年12月には絵本作家としてのデビューを果たす。2018年からは本格的に俳優としても活動を開始し、ドラマ&映画『賭ケグルイ』や舞台『鉄コン筋クリート』などに出演。映画『パディントン』では日本語吹き替え声優も務め、2020年に映画『明日、キミのいない世界で』では初のヒロイン役で出演。2020年11月より放送が開始されたNHK連続テレビ小説『おちょやん』では実母役に挑戦するなど、今後も多数のドラマや映画の出演を控えており、モデル、女優、タレントとして活動の幅を広げている。