「失敗を恐れず描くことが、自分を広げてくれる」(前編)
−庭師・木村博明さんを支える手描きの発想力
百貨店にお寺から個人宅まで。和洋問わず多くの庭を手掛ける庭師、木村博明さん。確かな技術と自由な発想に裏付けられた美しい庭が、多くのファンや顧客を集めています。
木村さんの庭づくりを支えるのが、紙に描きながらアイデアを生み出すというプロセス。そんな木村さんに、手描きへのこだわりと、庭づくりを楽しむ人のための新しいノート『BODONI 造園計画ノート』について語ってもらいます。
前編となる今回は、手描きのスケッチから生まれる、木村さんの豊かな発想の源泉に触れます。
固定観念にとらわれない自由な発想の庭づくり
今日はよろしくお願いします。まずは、庭師というお仕事について教えてください。
庭師として、商業施設や個人宅などの庭を作っています。今日お越しいただいたこちらのお寺の庭も担当したのですが、中庭には茶室と東屋を入れて、門からのアプローチには松や苔を配置しています。ここは、建物と庭を同時進行でつくるという方法でした。なので、建物がない状態で図面を読み取りながら完成イメージの絵を描いておいて、あとは現場で見て調整しながらつくったんです。実は、僕は完成イメージや図面といった資料を、現場に持っていかないんです。
完成図や図面を見ずにつくる。それはどうしてでしょうか?
庭って、絶対に描いた絵の通りにはいかないんです。例えば石の形が完成イメージと少し違ったら、図面通りに置いてもバランスが合わないんです。現場に来ないとわからない空気感を大切にしながら、いかに人の目でバランス良く見えるようにつくるか。それが、僕の仕事です。
木村さんが手掛けた個人宅の庭。(写真:木村さん提供)
そうした庭づくりの中で、木村さんの担当はどの部分になるのですか?
プランニングから始まって、手を動かして穴を掘って石や木を配置するところまで全て僕自身で行います。外の庭木や花はもちろん、岩や塀にウッドデッキにガーデンキッチンまで。建物の外すべてが僕の担当分野だと思っています。庭に足湯を作ったりもしますから (笑)。
足湯まで! 木村さんと言えば、「TVチャンピオン極」のガーデニング王決定戦でチャンピオンに輝いたのが印象的ですが、普段はどのような庭をつくっているんですか?
ほとんどは個人宅が中心で、和洋問わず、その場にふさわしい庭を生み出すことが僕のこだわりです。固定観念にとらわれず、自由な発想でお客様の思いを形にすると言いますか。個人宅以外では、例えば京都の法然院という有名な山寺にガラスを使った枯山水庭園をつくったり。長崎ハウステンボスでの庭づくりの世界大会では、上から水がしたたる前衛的な庭をつくりました。
ガラス造形作家・西中千人さんの作品を使いコラボレーションした長崎ハウステンボスの庭。ガラスのオブジェから水がしたたる。(写真:木村さん提供)
手描きによる発見が新しい挑戦に導いてくれる
そうした木村さんの自由な発想は、どこから生まれるのでしょう?
僕の場合、紙にスケッチを描きながら考えるんです。昼間は現場で力仕事をしていますので、だいたい夜の10時くらいから描き始めます。夜中にひとり紙に向かっていると、普段考えたこともないようなアイデアが、どんどんひらめくんですよね。描くことが面白くなって、つい必要以上のものまで描いてしまう。例えば「ここに足湯があったら面白いな」と。そんなことリクエストされてないし、僕自身足湯なんて作ったこともないのに(笑)。
そうして手描きから生まれたアイデアは、実際に実現できるんですか?
それはもう意地でも、100%実現させますよ。どうやったら作れるか、ひたすら考えて。お客様に提案した手前、作らないと嘘つきになっちゃいますから。例えば最近、庭にピザ窯を作ることが流行っていると思いますが、それを初めて形にしたのって僕なんです。それも手描きのスケッチから生まれたアイデアです。10年ほど前に初めて作ったのですが、最初は庭に置くピザ窯なんて見たことも無かったですからね。
足湯もピザ窯も、もはや庭づくりの範疇を飛び越えていますよね。
去年はアースバッグハウスという、土嚢を積み上げた建物までつくりました (笑)。でも、そうした新しい挑戦は重要なことだと思うんです。スケッチで生まれたアイデアが新しい挑戦に向かわせくれますし、それが自分の興味や仕事の幅を広げてくれる。手を動かすことの発見は、多いですよ。
木村さんが考える理想のアイデアノート
手描きにこだわる木村さんにとって、理想のノートとはどういったものでしょうか?
僕は紙にラフスケッチを描きながら庭の完成図を考えるのですが、何度も上書きし、修正を繰り返しながらイメージを膨らませていくんです。なので、思いついたアイデアをどんどん描き加えられるノートが理想的だと思っています。今回marumanさんから「庭づくりのための新しいノートを作りましょう」とお話をいただいたときも、思い描いたのは空間づくりのためのアイデアノートでした。
木村さんの理想を形にした『BODONI 造園計画ノート』縦横のリング製本で、2種類の紙が綴じられている。
そうして生まれたのが「BODONI 造園計画ノート」なんですね。
大切にしたのが、失敗を恐れずに自由に描きたくなるノート、ということ。思いつきを気兼ねなく描きこめて、もし間違えたとしてもすぐにやり直しがきくようなノートを作りたいと。さらに、庭づくりの現場で実践的に使える仕様を考えて、この形に行きついたんです。
手描きから生まれたアイデアが支える、木村さんの自由な庭づくり。そして、そんな木村さんの理想から生まれた『BODONI 造園計画ノート』。後編では、このノートに込められた思いと、木村さんおすすめ活用法を伺います。
《プロフィール》
木村博明(きむら・ひろあき)
庭師
千葉県市川市に生まれ、高校卒業後に庭造りの道に入る。現在は、株式会社 木村グリーンガーデナーの2代目代表を務め、商業施設から個人宅まで、和洋を問わず多くの造園を手がける。2019年 にはテレビ東京『TVチャンピオン極 〜KIWAMI〜』ガーデニング王選手権で優勝、初代チャンピオンに輝く。『木村博明の10万円でできるDIY庭づくり』(ブティック社)など著書も多数。
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