クリエイティブディレクター / プランナー
佐藤ねじさん(後編)
- Sketch Creators Vol.9
「毎日コツコツ書いたメモが、アイデアの種になる」

sketch(スケッチ)とは、人物や風景などを描写すること。連載インタビュー企画「スケッチクリエイターズ」では、素晴らしいクリエイションを生み出すさまざまなクリエイターへのインタビューを通じ、彼らの創作背景を言葉と写真でうつしとっていきます。

第9回目となる今回は、クリエイティブディレクター・プランナーとして活躍する、ブルーパドル代表の佐藤ねじさんにご登場いただきます。前編につづく後編では、ねじさんのアイデアの源となる「メモ」の活用法や最新の発想法など、「おもしろいコンテンツ」を生み出す具体的な手法についてお聞きしました。

あらゆるシーンで見つけられるアイデアの種

ねじさんは中学・高校生の頃からメモ魔だったそうですね。いまはどんなときにメモをとられていますか?

打ち合わせはもちろん、映画を観たとき、音楽を聴いたとき、本を読んだとき、おもしろいコンテンツを見つけたとき、旅行へ行ったとき、ふとアイデアが浮かんだとき、日常のあらゆるシチュエーションでメモをとっています。内容もさまざまで、自分の子どものユニークな発言や飲み会での友人のひと言など、思いついたことや気になったこと、心にひっかかったことは、なんでもメモしていますね。分野は違っても、応用できるアイデアは多いですから。これらはすべてアウトプットにつながる種になるんです。

ポイントはそのメモを何に活かすのか、具体的なルールをあらかじめ決めておくこと。その方があとでメモを見返すのがラクになりますし、長くつづけられるんですよ。僕の場合は「おもしろい企画を立てるために参考になるもの」をルールとしていて、毎日コツコツとメモをとっています。

ねじさんの著書『超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方』には、アイデアを生み出すためのさまざまなヒントが紹介されています。
2016年に刊行された著書『超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方』(日経BP社)では、集めたメモを活用するノート術や独自のアイデア発想法を紹介されています。ただ近年はタブレットPCとA4用紙をメインでご使用になられているとか。

そうなんです。以前は手書きのメモが中心だったのですが、現在は収集したメモをすべてタブレットPCに落とし込んでいますね。だけどこれは情報を整理する媒体が変わっただけで、基本的なことは本に書いたことと変わらないんですよ。

僕のノート活用術は大きく分けて3つのステップに分かれていました。まず、日々気になったことを「2軍ノート」と呼ぶノートにメモをする。次に「2軍ノート」から選りすぐりのメモを選び、その内容を膨らませてよりよいアイデアに昇華したものを「1軍ノート」と呼ぶ特別なノートに書き写す。そして「1軍ノート」を頻繁に見返し、アウトプットに活用するというもの。いまは「1軍ノート」、「2軍ノート」と分けず、タブレットPC内で行なっているイメージですね。

ねじさんが以前使用していた「2軍ノート」に書かれたメモ。

なぜノートからタブレットPCに変えたかというと、ノートに相当するレベルで僕のアウトプットに対応できるアプリケーションが、開発されたことが大きいかなと感じています。「2軍ノート」を「1軍ノート」に整理するのって、けっこう時間がかかってしまっていたんですね。僕はもっとたくさんアウトプットしたいのに、その時間の分だけアウトプットの量が減ってしまっていました。だけどアプリならタグを付ければ「1軍」か「2軍」かの区別が付きますし、検索もできますから。またノートには文字とともにそのアイデアをヴィジュアライズしたイラストを描いていたのですが、タブレットPCにしてからは画像を貼り付けています。

ただこれは僕が長年ノートを使い続けてきたからこそ、「1軍」か「2軍」かの選定が脳内で行えて、デジタルにすんなり移行できたんですね。もし僕のノート活用術を取り入れてみたいという方がいらしたら、はじめはノートの方が向いているかなと思います。

ノートを使っていた頃はメモとともにイラストを描き、タブレットPCを愛用している現在は、メモとともに内容に付随する画像を貼り付けているそうです。

メモはキュレーションすることでより活きる

ノートの場合は「1軍ノート」、タブレットPCの場合はタグを付けたアイデアを、活かす秘訣を教えてください。

自分のメモをキュレーションすることですね。そうすることで、そのアイデアが活きるんですよ。自宅の本棚に眠っていた本も、お風呂場やリビングなど、いつもと違う場所に置くと見え方が違ってくることってありませんか? ずっと同じ場所に置いてあると、読んでもいないのに飽きてくる。それと同じで、ノートやタブレットPCにメモが並んだままだと、その風景に目が慣れていってしまいます。せっかく浮かんだいいアイデアも、なんだかおもしろくなさそうに映ってしまったり。だからたまにテーマを決めて、過去のメモをキュレーションすることはすごく大事だと思っています。

ノートを中心にメモをとっていた頃に愛用されていたノートの数々。
タブレットPCとA4用紙は、どのように使い分けていますか?

僕にとってタブレットPCは「集約」、紙は「発散」です。タブレットPCはいまお話したように、アイデアのメモをまとめ、整理するもの。A4用紙はクロッキー帳のようなイメージですね。

文字を書くと、PCで打ち込むよりも時間がかかりますよね。それはネガティブなことではなく、時間を使う分だけ考えが膨らみますから、一気に解像度が上がるんです。ひとつの単語を文字に書くと、そこから派生する複数のものも浮かんでくる。脱線ができることも、紙の魅力です。

ねじさんが使っているA4用紙とペン。

独創的なアイデアを生み出す発想法

『超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方』の中で、ねじさんはご自身のことを「発想法オタク」だと書かれていました。いま取り入れている最新の発想法は何でしょうか?

昔は「おもしろい企画をつくる、話題をつくる」という意識が強かったのですが、キャリアを重ねるにつれ、戦略レイヤーから考えるようになっていきました。発想法は分かりやすくお伝えするためのものでもあるので、毎回「よし、この発想法を使おう!」と企画に取り組むわけではないのですが、2022年に入ってからは「WTIS」と名付けた独自のフレームワークをよく取り入れています。

「WTIS」のフレームワークを用いた発想法。紙にまず「W」、「T」、「I」、「S」と書き、それぞれの項目にポイントとなる要素を記入していきます。

「WTIS」は「Want」、「Target」、「Insight」、「SNS Spice」の頭文字。「Want」は売りたいとか認知度を上げたいといった目的、「Target」は設定するターゲット層、「Insight」はとらえるべきターゲットの心理や本質、ここまでのフレームで考えていくと、アイデアが普通になってしまうのですが、そこに「SNS Spice」を付けることで、広がりが生まれるんです。「#◯◯◯◯◯選手権」というハッシュタグを付けると、みんながSNSに投稿しやすくなるな、といったことですね。これらの要素を掛け算し、企画を立案していきます。

こういうものは見ながら書くのが大切なので、紙の方が向いているんですよ。手で書いているとエンジンがかかってくるので、翌日見直したときもその熱量にすぐ戻れるというか。

ねじさんのアイデア発想法は、業種を問わず応用できるものばかりです。
紙とデジタル、それぞれの良さを取り入れていらっしゃるのですね。発想法についてもうひとつお聞きしたいのですが、業種を問わず、よいアイデアを生み出せないことに悩んでいる方も多いと思うのです。そのような方へのアドバイスもぜひお願いいたします。

いまはSNSにもたくさんのアイデアが落ちている時代です。だから自分の理想とするプロジェクトのパターンを、なぞって考えてみるのはいかがでしょうか。世の中に出た企画は構造と表現に分かれているので、そこを分析・分解し、自分が取り組んでいるプロジェクトに当てはめてみるんです。

たとえば2021年6月、日清食品はプラスティック原料の使用量削減のため、「カップヌードル」シリーズの「フタ止めシール」を廃止して、開け口を2つにした「Wタブ」を採用しました。その中で商品の発売50周年を記念し、「Wタブ」を耳に見立てて蓋の裏に動物のイラストを描いたバージョンが登場。「蓋を開けたら猫ちゃんがいる」と、SNSで話題になったんですね。これをマルマンの「図案スケッチブック」に落とし込んだら、どういう企画になるのか考えてみるということです。構造ならば、商品をエコ化してみる。表現ならば、表紙に猫耳を付けてみる。これだとちょっと安直ではありますけど、こんな風にそのまんまトレースしてみると、アイデアの切り口が見つかると思います。この方法に限らず、いい事例をいっぱい集めておくのはオススメですね。

Twitterやテレビなどで話題になった「等身大パネルマザー」。「お母さんの姿が見えないと泣いてしまう」というねじさんの息子さんのために、等身大パネルを制作されたのだそう。結果は「ちょっと効果があった」とか。

マルマン製品で子ども向けワークショップを開くなら?

ブルーパドルではいわゆるビジネスの分野だけでなく、親御さんの「こんなのあると助かる」の声を叶えた子ども服ブランド「アルトタスカル」のプロデュースをはじめ、子育て関連・玩具といった子ども関連のコンテンツも得意とされています。子どもを対象にマルマン製品を活かすのなら、どういったことができると思いますか?

子ども服ブランド「アルトタスカル」では、夜道で活躍するジャケット「ひかるふく」や前・後ろ・表・裏のどこからでも履けるサルエルパンツ「ぜんぶおもて」などを展開。

「図案スケッチブック」なら、やっぱりものづくり系のワークショップが最適ですよね。僕の下の息子はいま3歳なのですが、よく紙に無造作な丸をたくさん描いているんです。大人が真似をしてもできないあの予測不能な動きを使えば、素敵な作品ができると思うんですよ。

たとえば人や動物の形にマスキングしたフレームを用意し、その中で子どもにペインティングをしてもらうんです。1枚ではなく、同じフレームを使って何枚も。ノートやスケッチブックはアーカイブ性があるので、それが1冊としてまとまったとき、3歳児がつくったとは思えないアート作品になるはず。とある作家が秀作を生み出す前に描いた、ノートブックを捏造するようなイメージです(笑)。

右側のイラストが、「図案スケッチブック」を使ったワークショップのアイデアのイメージヴィジュアル。

ルーズリーフは学生や社会人が使う印象ですが、育児にもち込んでもおもしろいと思います。ルーズリーフの「編集ができる」という特徴を生かせば、本づくりもできる。子どもが描いた絵をまとめて本にするのもいいし、逆に中身は大人が用意して子どもに本を編集してもらうのもいい。子どもならではの感性が現れて、とても楽しいのではないかなと。

怪奇現象が起こる「怖い部屋」やボルダリングで遊べる「代謝の部屋」など、ユニークな11の客室をもつ京都の「不思議な宿」。
どちらもすごくおもしろそうですね。最後に、ねじさんの今後の展開についてお聞かせください。

これまでブルーパドルではデジタルコンテンツの制作が中心だったのですが、近年は異なる11の客室をもつ「不思議な宿」のプロデュースをはじめ、デジタル領域以外の仕事が増えてきました。デジタル的な発想を別のジャンルにもち込めば、「空いている土俵」はまだまだあります。だからもっといろいろなフィールドに、活動の場を広げていきたいですね。

次はどんな企画で私たちを驚かせてくれるのか、ねじさんの今後の活躍も楽しみです。

 

《プロフィール》


佐藤ねじ(さとう・ねじ)
クリエイティブディレクター/プランナー

1982年愛知県生まれ。面白法人カヤックを経て、2016年にBlue Puddle inc.を設立。主な仕事に「ディスプレイモニタの多い喫茶店」、「アルトタスカル」、「不思議な宿」、「佐久市リモート市役所」、「小1起業家」、「5歳児が値段を決める美術館」、「劣化するWEB」など。2016年10月に『超ノート術 成果を10倍にするメモの書き方』(日経BP社)を出版。文化庁メディア芸術祭・審査員推薦作品、Yahoo Creative Award グランプリ、グッドデザイン賞BEST100、TDC賞など受賞歴多数。